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ちはやかんのめいろ

千早館の迷路

海野 十三

「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页

青空文庫

もしもあの池の中に、あのひとの死骸が沈んでいたら……ああ、いやだ、いやだ」

「お嬢さん。気を鎮めなければいけませんよ、まだ、そう思ってしまうのは早い……」

「でも、わたくしは、もうじっとしていられません。下へ行って人を呼んで来て、あの池をさらって貰います」

「待ちなさい、春部さん。今が大事なところだ、私が――」

といいかけた帆村は突然口を噤んだ。彼の全身の関節がぽきぽき鳴った。彼は望遠鏡にのしかかった。喘ぐように、彼の大きな口が動いた。

「……分りました。千早館の入口が……」

帆村は望遠鏡から目を放して、歓びの色を隠そうともしなかった。

「今、ねえ、たしか田鶴子と思われる女が外から戻って来て、千早館の中へ入っていったのですよ。玄関の脇に、巧妙な仕掛がある。あんなところから自由に出入りしていたんです。さあ、急いで行ってみましょう」

「どっちへ行くんですか。千早館ですか、池の方ですか」

「ああ、池……。池へ行ってみましょう」

7

帆村は実は心の中で春部の感傷を笑っていた、下の池の面に浮いていた絹の小さな破片が、田川の服の裏地に違いないなどという彼女の感傷を……。