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ちはやかんのめいろ
千早館の迷路
海野 十三
「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页
今から四年前のこと、日本アルプスで、私の友人である古神行基という子爵が雪崩のために谿谷深くさらわれて行方不明になりました。救護隊も駆付けましたが、谿が深くて手の施しようがなく、子爵の不運ということになって、空しく引上げましたが、子爵が遭難するとき、彼が同伴していたのが、あの四方木田鶴子だったんです」
「まあ。すると先生は田鶴子さんを四年も前からご存じでいらしったんですの」
「私は、正確にいうとそれよりももう三年前から田鶴子なる少女を知っていました。しかし田鶴子は私を何者であるか、知っていないと思います。というのは、田鶴子は古神子爵が経営していた喫茶店の女給みたいなことをしていたんです。私はしばしば感じのいいその喫茶店の入口をくぐりましたがね、この店が古神子爵の経営店であることを知ったのは、ずっと後のことなんです。なにしろ現今ならともかく、その当時は、子爵が喫茶店を経営しているということが知れては大変なことになる時代でしたからね」
「まあ――」
「そのとき格別田鶴子を注意していた訳じゃありませんが、こっちがはっきり四方木田鶴子へ注目するようになったのは、子爵の遭難からです。