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せんりがんそのた

千里眼その他

中谷 宇吉郎

「文藝春秋」1943(昭和18)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,478 字 · 26 页

青空文庫

しかし実のところは丁度その頃、内閣と海軍と太平洋戦とを胯にかけた世紀の大千里眼事件が起っていたので、この一文はそれを幾分でも喰い止めるために書いたものである。

その世紀の大千里眼事件というのは、思い出される読者もあるであろうが、いわゆる日本的製鉄法という事件のことである。或る発明家が、砂鉄を畑の中に盛り上げ、その中にアルミニュウムの粉を加え、火をつけると、砂鉄が一遍に純鉄になるという発明をしたのである。砂鉄ならば我が国に無尽蔵にあるので、これは大発明だということになり、それに最初にひっかかったのが、海軍の某廠の閣下で材料部長の地位にあった人であった。何でも江戸川の上流の某所とかで、実際にやらしてみたら、立派な鉄が出来たというのである。砂鉄とアルミニュウムと混ぜて盛り上げ、その上に土をかぶせて孔をあけ、その孔から或る薬液を注ぎ込んで火をつければ、それだけで立派に製錬が出来るので、あの厖大な鎔鉱炉などを造るのは全く馬鹿気た話だ、これで今度の戦争に勝てるという傑い御機嫌だという話を、実際にその人に会って来た友人から聞いた。

これだけ話をきけば、大体分ることで、これは立派に千里眼的要素を十分にそなえた話である。