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はんのすけしゅうげん

半之助祝言

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页

青空文庫

と叫んだ。

彼は一方で、菊枝夫人の部屋を毎日のように訪ずれた。茶菓子のもてなしを受けながら、例の調子でお饒舌りをし、頻りに夫人を笑わせる。夫人はまったく彼を甘やかしていた、彼の身の上話、特に亡くなった姉の話に心を動かされたようで、自分がその姉に代ってやる、といったふうな態度さえみせた。

だが三度に一回ぐらいの割で邪魔がはいった。彼が頓狂な話をし、夫人が若やいだ声で笑っていると、障子の向うで「お母さま」と笙子嬢が呼ぶ、つまらない用事なのだが、部屋へは絶対に入って来ない。

「お母さま、なになにはどこにありますの」

などと障子の向うから訊くのである。

そうかと思うと廊下を通る、わざと足音を立てて通り過ぎたり咳をしたりする。明らかに示威運動であるが、半之助はぜんぜん黙殺の態度であった。

雨の降る午後、半之助は図書助と碁を打っていた。

広い芝生の庭も、林のような樹立も、築山も、紗をとおして見るように緑ひと色に濡れていた。ときどき泉池で鯉のはねる音がし樹立のなかで蒼鷺の鳴く声が聞える。それが静かな雨のしじまにいっそう森閑なおもむきを添えるように思えた。珍しく半之助は饒舌らない、どうやら苦戦のもようである。