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はんのすけしゅうげん

半之助祝言

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页

青空文庫

そこへ笙子嬢がはいって来た、しずしずとはいって来て縁側へぴたりと坐って、

「お父さま、拝見いたします」

と審判官のような声で云った。

半之助などには眼もくれない、おそろしくつんとして、しかも相当に挑戦的な姿勢で、そうして冷やかに、じっと盤面を睨んだ。……彼女は碁が上手だという、父親でさえしばしば負けこむそうである。彼女がいま観戦に現われたのは、父親から半之助の腕前を聞いて、愚弄するこんたんだということは明らかだ。

「お父さま、これは囲碁でございますか」

はたして彼女は攻撃の矢を放った。

「それともなにかほかの競技でございますか」

「どうしてまたそんなことを訊く、囲碁に定っているではないか」

「まあこれがですか」嬢は軽侮に耐えないといったふうに笑った。

「――これが囲碁、……まあ珍しい、こんな妙な布石を拝見するのは初めてでございますわ」

「それはおれのせいじゃない」

図書助はこう突っぱねた。令嬢はそれはもちろんというふうに微笑し、さらに次の攻撃に移ろうとした。そのとき半之助が沈黙をやぶって、甚だ明朗に饒舌りだした。

「この碁盤を見ると思いだすんですが、城下町の道路改修をよく断行なすったですな、あれは実にすばらしい」