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はんのすけしゅうげん
半之助祝言
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页
その日の会食はそれで終った。
「ばかな話があるものだ」
外へ出た半之助は独り言を云って、さも気にいらぬというふうに首を振った。
彼が江戸から来た役目は、城代家老を辞任させることにあった。
埴谷図書助をその職から去らせ、政治に容喙しないようにさせる。これは十余年このかたの懸案であって、そのためには従来あらゆる手段を講じた。玄武社という自主的結社もそのために組織されたといってよかろう。
しかしすべて徒労であった、城代家老はその座に泰然とすわって、今日に至るまで微動もしないのである。もちろんそれには理由があった。
まず埴谷図書助は先代の藩主の弟である。十六歳で埴谷五郎左衛門の養子になり、二十三歳のときからずっと城代家老の席を占めて来たが、現藩主の志摩守正列には叔父に当るし、家臣ぜんたいとは主従関係ということになる。
次に彼は人物として第一級であった、明晰な頭脳、胆力、識見、そして堂々たる風貌、すべてが群を抜いていた(筆者の所有する資料に白描の肖像が載っているが、それは英国の前首相ウインストン・チャーチル氏に瓜二つである)。もし彼が幕府の大老にでもなっていたら、古今の名宰相といわれる業績を挙げたに違いないと思う。