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まんじ

卍

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页

青空文庫

とは思いましたけど、正直のところいうたら、表情が乏しいて、絵エに画いたように綺麗なばっかりで、ちょっとも近代的なことあれしません。「この人岡田時彦に似てるやろ?」と、そない光子さんはいいなさるのんですが、時彦よりもっとずっと女性的で、眼エが細うて眼瞼が脹れてて、眉の間を神経質らしゅうピクピクさす癖あって、なんや知らん陰険らしいのんです。「栄ちゃん、何もそない堅ならんかてええし、姉ちゃんちょっとも気イにかけてはれへんさかい――」いうて、光子さんは一所懸命執り成しなさるのんですけど、私は私で、どうも虫の好かん奴ッちゃ思たらどないしても打ち解けられしませんし、綿貫の方もそれ感づいたのんか、無愛想な顔ニッコリともささんと、いつまでたっても膝崩そうともせえしませんのに、光子さんだけは何や独りで面白そうに笑いなさって、「どないしたん? 栄ちゃん。あんたけったいな人やなあ」いいながら、むずかしい顔してる綿貫の方を意味ありそうに上眼で睨んで、「そんな顔してたら姉ちゃんに悪いやないか」いうて、指の先で頬べた突ついたりして、「あのなあ姉ちゃん、ほんまいうたら、この人焼餅焼いてんねんし、――」