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まんじ
卍
谷崎 潤一郎
「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页
その十二
と、身イふるわして泣きながら、今度はこっちからしがみ着いて、「くやしいッ、くやしいッ、くやしいッ」と、夫の体掻きむしるように揺さ振りました。「何や、何でそない口惜しい?」夫は出来るだけ優しいに、「え? 何が口惜しいのかいうてみい、泣いてたら分れへんがな、え? どないしてん?」いうて手のひらで涙拭いてくれて、なだめたり、すかしたりしてくれますので、なお悲しゅうなって、あーあ、やっぱり夫は有難い、自分は罰中ったんや、もうもうあんな人のこと思い切って、一生この人の愛に縋ろう、――と、一途に後悔の念湧いて、「うち今夜のことみんないうてしまうさかい、きっと堪忍しとくなはれなあ」と、とうど夫に今までのことすっかり話してしまいました。
その十二
私はすっかり心入れかえた気イになって、明くる朝は夫より二時間も早起きて、台所い出て行って朝御飯の用意したり、夫の洋服ちゃんとしといたり、いつもほったらかしたまま女子衆まかせにしときますのんを、自分が先い立ってせっせと働きました。「お前、今日は学校い行けへんのか」と、夫は出かける時間になって鏡の前でネクタイを締めながらいいましたけど、「うち、もう学校は止めよ思てんねん」