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まんじ

卍

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页

青空文庫

――私はひがんでるせえか、どないしても自分の方がそない愛されてる思えしませんのに、「いや、そうです、たしかにそうです、お姉さんは仕合わせです」いうて、「ああ、ああ、それに引きかえて僕は何ちゅう不幸な運命の下に生れたのんでしょう」と、芝居のセリフみたいに節つけていいながら、泣きそうな顔するのんです。それが、始めて会うた時から女みたいな男やと思てましてんけど、そないいうて話してみますと、表情や物のいいようまで女の腐ったんみたいにねちねちしてて、何やうるさいほど執拗うて、横眼でジロジロ邪推深そうに人の顔色うかごうたりして、なるほどこれやったら、光子さんかてそない好きと違うんかなあいう気イしますねん。そいからいつや笠屋町で着物取られた時にしたかて、綿貫は私呼ぶのんに反対やった。もうあないになってんやったら度胸きめて、仲居さんの着物借って帰ったらええ、そんで「こないこないの訳で深う約束した男あります」いうたら、出来たことしょうがないよってかいって早結婚出来る、出来なんだら駈け落ちする覚悟きめたら、ちょっとも恐いことあれへんのに、あんな時に何も知らんお姉さん呼ぶやなんて、そんな厚かましいこと出来るもんか、第一呼んだかて来てくれへんにきまってるいうてんけど、光子さんは「着物なかったら今晩家い行なれへん」