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まんじ

卍

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页

青空文庫

――それが、あの日の昼、私のとこい来なさる前に三越い買い物に行きなさったら偶然綿貫に会いなさったのんで、こいから柿内の姉さんとこ行て帰りにずっと笠屋町い廻るさかい待ってて欲しいうて別れなさった。そいで綿貫は揃いの着物着てなさったこと知ってましたよって、こりゃええ機会や、あの着物ないようにしてやったらどうしても私のとこい電話かけるようになる、そしたら私かて愛憎尽かすやろいうように考えて待ってる間にあの家のもん買収してこないこないせえいうといた。――綿貫やったらそのくらいのこと企らまんとも限らんし、企らむだけの時間もあった。そやなかったら何ぼ何でも人の着物着て警察い連れて行かれるいうことあんまりおかしいし、光子さんとこいも綿貫とこいも、そんなり警察からなんにもいうて来なんだいう訳あることない。けどその時はまさか計略にかかったとは思いなされしませんさかい、どないしてええのんか顛倒してしもてると、「こないなったら、柿内さんとこい電話かけて揃いの着物取り寄せるよりしょうがないでしょ」と、綿貫の方からいい出した。――綿貫の話とはそこえらい違てて、光子さんはもう取られたのんが揃いの着物やったいうことさい忘れてたくらい慌ててなさって、なかなかそんなこと考え出せるどころやなかった。