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まんじ
卍
谷崎 潤一郎
「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页
最初私は、「夕方まで昼寝するさかい起したらあかん」いいつけて、夫にも電話で断っといて、寝室のドーア中から鍵かけて、窓から飛んで降りて逃げよ、と、そない考えましてんけど、外側が洋館の白壁になってて足がかりもあれしませんし、前の浜には仰山海水浴の人行てますし、そんな人目につくようなこと出来しませんよって、また相談し直して、いっそのこと此処二、三日大人しいにしてて、夫や家の者に油断さしてから、海い泳ぎに行くように見せて逃げ出してやろいうことになりましてん。そいでそないするのんには、二、三日して気イ許すようになった時分、「毎日家の中に閉じ籠ってたら病人みたいになるさかい、海い這入ることぐらい許して頂戴。海水服一つ着たなりで、何処いも行かんと前の浜にいますよって」と、夫が出かける時に断っといて、ほんまに海水服着ただけで海岸い出る。同時にお梅どん光子さんの着物持って、浜で待ってて、直きに着換えさす。着物は海水服の上からスッポリ被れるようなワンピースの洋服にして、帽子もなるだけ縁の下った顔の隠れるようなのんがええ。浜には人がウヨウヨしてて、かいって気イ付けへんやろけど、洋服やったらこの頃めったに着たことないのんで、尚更誰に見られても私やいうこと分れへんやろ。