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まんじ
卍
谷崎 潤一郎
「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页
私と、夫と、光子さんと、お梅どんと、四人が何処ぞい旅に出かけて、宿屋の一と間に蚊帳吊って寝てて、それが六畳ぐらいの狭い座敷で、同じ蚊帳の中に、私と光子さん中に挟んで両端に夫とお梅どん寝てる。……そんな光景が夢の場面の一つのようにぼんやり頭に残ってますねんけど、部屋の様子から考えたら、ほんまの事が夢に交り込んだのんに違いないのんで、これもあとで聞きましたのんに、夜遅うになってから私の布団隣りの部屋い引っ張って行きましたら、光子さん眼エ覚ましなさって、「姉ちゃん、姉ちゃん」と譫言みたいにいいっづけて、「姉ちゃんいてへん、うちの姉ちゃん返して! 返して!」いうてポロポロ涙こぼしなさるのんで、しョことなしにまた同じとこに寝さしたんやそうですさかい、それが夢では宿屋の座敷になってるのんですが、まだその外にもいろいろ不思議な夢あるのんで、これも宿屋みたいな所に私が昼寝してましたら、傍に綿貫と、光子さん小声で内証話してて、「姉ちゃんほんまに寝てはるねんやろか。」「眼エ覚ましたらいかん。」いうて、ヒソヒソしゃべってるのんが切れ切れに聞えますのんを、私はうとうとしながら聞いてて、此処は一体何処やねんやろ! きっといつもの笠屋町の家に違いない、生憎其方い背中向けて寝てるのんで、二人の様子見えへんけど、見えんかてもう分ってる