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まんじ

卍

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页

青空文庫

自分は今日も事務所の帰りに光子さんと会うて相談して来た。私さい承知してくれたら、あとは自分が一切引き受けて、綿貫の方もちょっとも心配ないように片附けてやる。光子さんも明日は家い来なさるやろけど、私に会うのん極まり悪がってなさって、「あんたから姉ちゃんに詫まっといて頂戴」いわれて来た。と、そないにいうて、自分は綿貫みたいな不信用な男やないよって、綿貫に許したこと自分にも許してくれたらええやろいうのんですが、そら、なるほど、夫の方は人欺すようなことせんとしても、気がかりやのんは光子さんですねん。夫にいわしたら「自分は綿貫と違うよって大丈夫や」いいますねんけど、私の身イになったらその「違う」いうこと心配の種やのんで、なんせ光子さんは始めてほんまの男性ちゅうもん知んなさった、そんだけ今までより真剣になんなさるかも分れへんし、そのために私捨てなさっても、「不自然の愛より自然の愛貴い」いう立派な口実ありますし、良心の苛責も少いですやろし、……もし光子さんにそんな理窟いわれたら、夫にしたかって間違うてることしなさいいう訳に行けしませんし、ひょッとしたらあッちゃこッちゃ説き伏せられて、しまいには「光子さんと結婚さして欲し」