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まんじ

卍

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页

青空文庫

その三十三

すると光子さんは「なんで飲めへんのん? なんで飲めへんのん?」いうてヤキモキしなさって、「ああ分ってる、あんたらあて欺しててんなあ」と、身イふるわして泣きなさいますし、もうしョうない、殺される覚悟で飲んでやろ思て、薬の包口イ持って行きましたら、私の様子黙って眺めてた夫が「園子!」いうていきなり手エ掴んで、「まあ、待ってくれ! こないなったら孰方がどうなるか運試しや。その薬換えことして飲もやないか」いいますのんで、「ふん、そうしょう、そんで二人とも一、二の三で一緒に飲も」と、とうどそないして飲みましてん。

その三十三

この光子さんの計略図にあたって、夫と私とはどんなにお互に疑がい合い、嫉妬し合うたことですやろ。毎晩々々薬飲まされるたんびに、寝さされるのん自分だけやないか、夫はうその薬飲んで寝た真似してるのん違うやろかと、そない思たら、飲んだ風して放ってしまおとしますねんけど、光子さんいうたらそんな胡麻化しささんようにじッと手もと視詰めてて、まだそんだけでも心配やのんか、しまいには「あて飲ましたげるわなあ」と、寝台と寝台の間に立ちなさって、恨み合いせんように、同時に両方の手エに薬持ちなさって、二人仰向けに臥さしといて、あーんと口開かして、薬入れてしまいなさると、今度はあの、病人の水飲ます嘴の長アいガラスの容れ