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まんじ

卍

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页

青空文庫

いいますねん。そんで夫も私も、衰弱の余り楽しいことも嬉しいことも感じんようになってしもたら、もうその時がこの世の終りやと観念してて、今日死ぬか明日死ぬか思いながら生きてましてん。

ああ……ほんまに私、その予想の通りになってあの時一緒に殺されたらどない幸福でしたやろ。それがこないな思いかけぬ結果になってしもたのんは、あの新聞に記事出たのん第一の原因ですのんで、なんでもあれ九月の二十日頃でしたやろか、或る朝夫が「ちょっと起きてくれ」いいますよって、何や思たら、「誰やこんなもん送って来た奴ある」いうて、いつも見たことない新聞の三面のとこ広げてて、そこ覗いてみましたらあの綿貫に書かされた書付大きな写真にして載せたあって、仰山なこと書き立ててある見出しの上に、赤インキで二重円の印附けたあるやあれしませんか。それも一日だけやない、記者の手許に材料たんと集まってるさかい、連日にわたってこの醜悪なる有閑階級の罪状を摘発すべしという予告したありますのんで、「それ見なさい、やっぱり綿貫に欺されてたんや」いいましたもんの、もうその時は案外度胸すわってしもてて、口惜しいとも忌ま忌ましいとも思わんと、「いよいよ最後の時来た」