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なんぽうゆうしん

南方郵信

中村 地平

「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页

青空文庫

爺さんはトヨの尻に激しいひとむちをくれる。するとさなきだに菜の花の匂いに興奮していたトヨは、まるで忘れていた若い血が急にたぎりあがってきたかのように、忽ちギャロップの姿勢に移る。小石の多い凸凹径に、馬車は騒々しい音をたて、物凄く震動しながら、いっさんに駈けてゆく。黄色い花の穂が三太の眼から後ろへ、後ろへと逃げてゆく。しかし、花の穂は無限に続いていて、遠く遠く霞んだように白雲のなかへ消えている。

菜の花畑では百姓たちが長閑そうに野良仕事をしているが、賑やかな車輪の響を耳にすると、仕事をやめて、いちように背のびする。そして、祠のなかに小さな姿で端坐している三太に気がつくと、明るい陽の光りのなかに、まぶしそうに眼を細めて、笑うのである。

「あれ、ほんに小さか生き神さまじゃなあ」

背や袖に黄色い花びらをつけているお主婦さんや、娘たちは花の穂のなかに小腰をかがめ、めいめい両手を合わして、その生き神さまを拝んでくれる。

キラキラする白雲の光りや、強い花の匂いや、はげしい馬車の弾動や、百姓たちの冗談やに、三太は酔っ払ったように上気している。

御者台に三太は話しかける。