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なんぽうゆうしん
南方郵信
中村 地平
「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页
黄色い夏蜜柑の花が、祠の屋根に散りかかる季節になると、一年に一度の氏神様のお祭りがある。その日になると、旦那の家では赤飯の握り飯をつくり、祠にはこんで、集まって来た子供たちに配るしきたりである。そのお祭り日が近づいてきたが、祠が古くなって朽ちているので、新しいのととりかえなければならない。木肌の匂いがぷんぷんする新しい祠が、これから蜜柑畑に運ばれるところであった。
荷馬車の頭にはトヨがつながれている。昔は共進会で、競馬馬として褒状を貰ったこともある彼女も、今では時折りではあるが、荷馬車が必要になると、こうして駄馬として使用されることもあるのである。
蜜柑畑には、源吉爺さんと一緒に三太も行くことになった。座布団の敷いてある窮屈な祠のなかに、爺さんは三太を抱きあげて坐らしてくれた。
トヨの手綱は例によって爺さんがにぎり、賑かな声に見送られて、三太の馬車は門を出た。
馬車が町なみを外れて、田圃径にさしかかると、とたんに暖かい風が、むっとするほど菜種の匂いや、黒土の香りやを三太の顔に吹きつけてくる。
「ひとつ、速いところをやらかしますかな」
それまでのん気そうに鼻唄をうたいながら歩いていた爺さんは、ひらりと身軽そうに御者台にとび乗った。