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なんろ

南路

宮本 百合子

「太陽」1922(大正11)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页

青空文庫

字句は単純で、どこにも親らしい威厳や権威を仄めかしたところはなかった。ただ、自分等の愛する者が、どうぞ不幸でないように、どうぞ正当であるように、手も眼も届かないここから、どんなに希望しているかということが、静に、抑制ある言葉の裡に籠められているのである。

頭を突き合わせて読みながら、私は涙の湧くのを感じた。この時ほど、父や母の心が、切に我々を打ったことはない。彼等が、遠く遠く離れているために、却って近く、我心の裡に感ぜられる心持がしたのである。

始め、この手紙は、母が書く積りでいたのだそうだ。けれども、生憎、この二三日、体の工合が悪くて筆を執られないので、自分が代って書いた、という文字を見ると、私共は、不安になって一層、紙に近く眼を動した。

実は、やや突然で驚くかもしれないが、母は、十二月の末頃に、出産の予定になっている、体の工合の悪いのもそのためで、近頃は、大儀で頭も大分疲れているらしく見えるという。それを読むと、私共は、思わず、

「まあ!…………」

と云って顔を見合わせた。云うに言葉も出なかった。激しい不安が互を照り返した。

父は、我々の驚を予期したように、大事ではあるが、一方から見ればそれだけ健康が恢復したことになるのだから安心しているようにと云っている。