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なんろ
南路
宮本 百合子
「太陽」1922(大正11)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页
今日一日は、広茫として限りもないテキサスの野を横切って暮れるのだろう。
朝、八時半頃、寝室(バース)を出て化粧室に行くと、昨夜、自分等と同じ場所から乗込んで来た婦人が、椅子に腰をかけ、しきりに何か云っては両手で頭を搾めあげているのを見出した。
傍には、連れらしくも見えないもう一人の婦人が、屈みかかって肩に手をかけ優しく労(いた)わってやっている。――
朝日がちらちらする鏡の前に立ち、顔を洗い髪を解し始めたが、一つ部屋の中に何事か起っていそうなので、何となく気が落付かない。
自分は到頭髪に手をやったまま傍によって行って、
「どうかなさいましたか?」と訊いて見た。
着物をつけず、派手なドレッシング・ガウンだけを羽織って、寛やかな胸元から、奇麗なレースの縁飾りを覗かせたまま、彼女は、ぐったりと肱をついて一隅の鏡の前に靠(もた)れているのである。
「有難う。どうぞお構いなく」
傍から額を押えていた婦人が、私の方を顧みて、
「頭がひどくお痛みになるんですって」と説明した。
「有難う。ほんとにお世話をかけます。汽車に乗ると、きまっていつもこうなんですの。動揺がいけませんのね、きっと」