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なんろ

南路

宮本 百合子

「太陽」1922(大正11)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页

青空文庫

良人が、ポーターに賃銀を払い、手廻りのものを入れた小さいスーツ・ケースを座席の下に片寄せている間に、私は、給仕のくれた紙袋に、脱(と)った帽子をしまい込んだ。

そして、外套の襟(カラー)を寛ろげ、緩くり、夜のような燈火の下に向い合って、深い椅子に埋まり込むと、始めて六日以来の疲れを味うような心持になった。

今は十一月十八日の午後三時――多分四十分位になっていよう。十二日以前の今時分、自分は、こうやって南方に向う列車に乗込もうなどとは、夢にも思っていなかったのである。椅子の高い背に後頭部を凭(もた)せかけ、やや下眼で、後から乗込んで来る人々を眺めている彼に、私はほっとして、

「やっとこれで一段落ね」

と囁いた。

二

何処でも、大都会の外郭は、こんな風景をもっているのだろうか。

三時四十分という定刻を、殆ど一秒の差もなく出発した列車は、紐育の市中を離れると、暫く止って機関車を換えた。煤煙を吐きかけて、市民の健康や建物を害わない用心に、或る処までは電力で運転する。滑らかに軽く地下や高架橋を辷って行く。けれども或る処まで来ると、汽車は普通の石炭を焚き、シュッシュッ、ゴッゴッと駛り始めるのである。