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はんこう
反抗
豊島 与志雄
「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页
いつぞや、隆吉の父の写真を見たいと仰しゃったそうでございますが、隆吉の前では両親のことは一切口にしないようにと、横田さんとお約束してあるものでございますから……それに、横田さんへも一寸気兼ねなことがありまして、無いと云ってお断りしましたが、どうぞ悪く思わないで下さいませ。またいつかお目にかける時もございましょうから……。」
「いいえ、」と周平はその言葉を遮った。「御事情は私も存じております。」
定子は彼の眼の中を覗き込んだ。そしてやがて云った。
「いろいろお話申したいこともございますけれど……。」
そこへ、女中が砂糖湯を持って来たので、定子は口を噤んでしまった。そして彼女がその湯呑を取上げていると、保子と隆吉とが出て来た。保子は手に小さな風呂敷包みを持っていた。それを定子の前に差置くと、定子は黙って受取った。
「それでは、横田さんへどうぞ宜しく仰しゃって下さい。」と定子は云った。
彼女が立ち上って帰りかけると、周平は妙に心残りがして、皆の後へついて玄関まで見送った。隆吉が電車まで送ってゆくことになった。
二人が門の外に見えなくなってからも、周平はまだ其処にぼんやり佇んでいた。