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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

暫くすると、定子はもう帰らなければならないと云った。保子はしきりに止めたけれど、家の都合でどうにもならないとのことだった。

「では一寸お待ち下さい。」と保子は云って、向うへ座を立って行った。

周平は定子と向き合って残された。

定子は周平の方を向いて、まじまじと彼の顔を眺めた。彼は次第に顔を伏せてしまった。

「とうからお目にかかりたいと思っておりましたけれど、自由に出られないものでございますから……。」と彼女は云った。「こちらへ伺いますのも、一寸した隙を見て、月に一度か二度のことでございますよ。それでもあなたのことを蔭ながらお聞きしては、心強く存じておりました。隆吉は御存じの通りの不仕合せな身の上でございますから、くれぐれもお頼み致します。」

そういう風に云われると、周平は一方では恐縮しながらも、一方では前からの知人ででもあるような親しみを覚えてきた。

「隆ちゃん、」と定子は向うに黙っている隆吉を呼びかけた、「私にお砂糖湯を一杯貰ってきて下さいね、喉が少し悪いから。」

隆吉はすぐに立っていった。その間に定子は周平の方へ膝を進めて、口早に小声で云った。

「あなたにお詑びしたいことがあって、気にかかっておりましたが、丁度お目にかかって宜しゅうございました。