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はんこう
反抗
豊島 与志雄
「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页
何度も足を伸ばしたり引込めたりしてるうちに、またうとうととした。暫くして、彼ははっと眼を覚して、思わず上半身を起した。向うにお清が眠っていた。電灯の光が妙に薄暗かった。
彼はそっと起き上って、窓を開いてみた。外は仄白く明けていた。切れぎれになった灰色の雲が、幾重にも重なって空低く垂れ籠めていた。軽い風があるとみえて、隣家との間に伸び出てる欅の枝が、二三枚の枯葉をつけたまま、ゆらゆらと動いていた。其他はただ一面に、靄もない茫とした薄ら明るみの中に、夜明けの一時を眠っていた。
周平は窓縁に両肱でもたれかかりながら、それらの景色にぼんやり眼をやった。頼りない佗しさが、しみじみと身に迫ってきた。もはや何物もない空しい気持だった。然し、その中に心を浸していると、その空しさが一種の力強いものに感ぜられてきた。身を投げ出した後に、自ら途が開けて居た。彼は昨夜からのことを思い出した。お清と綺麗な一夜を明かしたことが、今は奇蹟でなくて、如何にも自然らしく思われた。心の底を明し合ってみれば、もはや慾望も何も無くなっていた。相許した晴々しさがあるばかりだった。彼はその空しい気持で、凡てに別れを告げ得る気がした。