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おじ

叔父

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,585 字 · 24 页

青空文庫

そして不思議なことには、中野さんは一度も喜代子の結婚について考えたことがなかった。喜代子を自分の子供の誰かに貰ってやろうとか、またはいいところへ世話してやろうとか、そんなことはまるで忘れてしまっていた。喜代子はもう学校も卒業しているし、年も十九になっていたが、中野さんにとっては、いつも、そしていつまでも、無邪気な処女だった。

三月はじめの或る日曜日に、喜代子は菜の花を沢山持ってやって来た。そして座敷の床の間の花瓶にそれを生けようとした。がどうもうまくゆかないらしく、しまいには変にじれ出してしまった。

それが中野さんには面白かった。が中野さんはもっともらしい口の利き方をした。

「菜の花だけを生けようったって無理だよ。何かしんになるものがなくちゃあ……。」

「いいですわ。」と喜代子は不機嫌そうに答えた。「あたし菜の花の畑を表現してみるつもりなんだから。」

「表現はよかったね。」

だが中野さんの調子は、少しも皮肉ではなく嬉しそうだった。

「ええ、表現するのよ。」と喜代子は平然と云ってのけた。「暖くなったらあたし、菜の花ばかり咲いてるところに行ってみるつもりなの。