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とりかえしものがたり
取返し物語
岡本 かの子
「大法輪」1934(昭和9)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,882 字 · 28 页
と自分の力で自分のこころを警しむるところにまだ自力の執が残っておる。これは、「忘れられぬぞあのことを、」と申す方が弥陀の方より与え給う信心を現すのみか、本願を悦ぶ貌もあり、ずんと当流易行の道に適うことである。迚ものことにそう唱えしゃっしゃれ』
おくみ『「忘れられぬぞあのことを」でござりまするか。「忘れられぬぞあのことを」でござりまするか。なんじゃ知らぬけれど、わたくしどもには一そ尊いように感じられます。お上人さまの御証明を得たからには、もう安心いたしました。では、これを土産に勇んで御主家へ戻ります。では御機嫌よう。お上人さま』
蓮如『まあ待ちやれ、おくみ、そなた何ぞ、も一つ忘れたものはありはせんかの』
おくみ『はて、忘れたものとは』
蓮如『さあ忘れたものとは』
おくみ『何のことでございます』
蓮如『そなたに取ってあの世の往生は定まった。然し此の世でいっち慕わしいお人に逢わんで往んでも大事ないか』
おくみ『あれ、御慈悲の有難さに源兵衛さんのことは、いつの間にやら忘れていた。だが思い出してみると、こりゃどうしても源兵衛さんに逢わなくては……お上人さまも罪なお方でいらせられます』