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くちぶえをふくぶし

口笛を吹く武士

林 不忘

「サンデー毎日」1932(昭和7)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,467 字 · 21 页

青空文庫

「大きな声だな。寝てもおられん。」

きょとんとした円顔で、不思議そうに、一角を見つめた。

「ううい、どうしろというのだ。」

「じつにどうも、度しがたいお人ですな。吉良殿を護るために、赤浪ばらの策動を突きとめていただきたい。これは、付け人として当然の任務ですぞ。」

「大丈夫。攻めてなんぞ来はせんよ。また、来たら来たで、その時のことだ、あわてるな、狼狽てるな。」

「何をいわれる! 隠密の役目は、あらかじめ――。」

「隠密? この、おれが、か?」

「さよう。」

「間者だな。」

「さようっ!」

「密偵だな、早くいえば。」

「くどいっ!」

「犬じゃな、つまり――犬、猫、それから、男妾には、なりとうないと思っておったが――。」

「何をいわれる。誰が兄貴を、男めかけにする女があります。」一角は、とうとう笑い出して、「犬、猫などと、見下げたようなことをおっしゃるが、兄貴は、それこそ犬、猫のごとくに――。」

狂太郎は、眼をしょぼしょぼさせて、

「まあ、それをいうな。」

「いや、いいます。あまりだからいうのです。まるで犬、猫のように、雨露をしのぐ場所もなく、尾羽うち枯らして放浪しておられた――。