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ふるきミニエチュア

古き小画

宮本 百合子

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页

青空文庫

スーラーブも馬から降りた。兵卒が駆けて来てその馬を引き戻った。ツラン方から、熱情の籠った声援が湧き起った。イラン勢からは、刺戟的な、太鼓の響が伝わって来た。

イランの戦士は、スーラーブの眼に、昨日よりずっと穏やかに、礼儀深く見えた。彼は、あんな劇しい様子は示さず、対等に振舞った。

「さあ! きのうの勝負の片をつけよう」

スーラーブは、黙礼した。イランの戦士は、スーラーブの顔を見ながら太刀を抜いた。その眼ざしが、彼には殆ど親みを湛えているほど害心のないものに感じられた。スーラーブは、喉元にせきあげる感情で、思わず訊いた。

「卿は、本当にルスタムではないのか」

和らいでいた光が、素気なくふっとイラン戦士の眼の中で消えた。彼は俄に焦々し、太刀を構え挑みかけて叫んだ。

「さあ、さあ! 何をぐずぐず!」二人は、後じさった。長い、反の強い太刀が、敵を狙うた獣の牙のように、切先を交えて対峙した。

スーラーブは、例によって始めのうちどうしても注意が集注されなかった。彼は、全く受け身に働いた。

けれどもイランの戦士は、長引く一騎打ちを、この一勝負で決めたいと思うらしく、太刀風鋭く切りかけ切りかけ追って来る。