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ふるきミニエチュア
古き小画
宮本 百合子
「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页
「ああ、ああ……」
若者は、涙の乾いた悲しい声を号泣するように永く引張って、体を動かした。熱い砂上に吸われて行く血の匂いが、ルスタムの鼻を刺した。彼れは、一層顔を近づけて訊きかえした。
「ルスタムがどうしたというのだ」
若者は、ぼんやり開けて天の青空を映していた瞳をぐるりと動かし、犬のような罪のない、遠くを見る眼差でルスタムを見た。
「ああ。――ルスタム」
若者は喘いで、むせた。
「ルスタムが、儂の讐を討ってくれる。イランのルスタムは――白い馬に――ああ会ったら云え……ルスタムはわが父だ。ここに、ここに、……」
ルスタムは、倍にもなったように眼を見開き息をつめて起き上った。地面と輝く天とがぐらぐら目先で揺れて一緒くたになった。
彼は、急に何処かを打たれたように、若者の上におっかぶさり、熱心に、早口にきいた。
「卿の名を云え。母は? 父は? 確りしろ。名は何というのだ」
五十一
スーラーブは、微かに、然し明瞭に「母は? 父は?」と自分の傍で呼んでいる声をききわけた。捕えどころのない優しい感情ののこりと、説明の必要を知る実際的な意識とが、ひくひくする小虫のように、彼の心で動いた。