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ふるきミニエチュア
古き小画
宮本 百合子
「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页
彼は暫く黙ったまま、先刻から手に持ったぎりでいた土耳古玉を目的もなく指の間で廻すと、思い切った風で、
「卿はルスタムに会ったか?」
と問ねた。彼の顔には、目に止まらないほどの赧らみと、真面目な、厳しい表情とが浮んだ。
「今度は、残念ながら会いませんでした。ルスタムは、一昨年、マザンデランで白魔を退治してから、ずっと、シスタンの居城にいるとききました」
「もう余程の年配か?」
「六十度目の誕生は、間違いなく祝われましたでしょう」
「…………」
商人は、流眄でスーラーブの黙っている顔を見た。熱心な集注した様子が、彼を愕かした。商人は、心私(ひそ)かに、自分の煽てが利いたと想像し、ツランのアフラシャブへよい注進の種が出来たのにほほ笑んだ。そして、一層誠らしく、丁寧に、
「お若い、雄々しい君様の御将来には、大国の王座が約束されているようなものでございます」
傍に、髭を撫で、注意深く話を聞いていたシャラフシャーが、じろりと、鋭く商人を視た。
「卿は、宝石だけを売っておればよろしい」
そしてスーラーブに向い、ゆっくり、一言ずつ切って、
「我君、どの玉をお買いなされますか?」
スーラーブは通一遍の興味で、隋円形の紫水晶と、六七顆(つぶ)の円長石とを選んだ。