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ふるきミニエチュア

古き小画

宮本 百合子

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页

青空文庫

影は、ルスタムを認めると、ぎょっとしたように止った。ルスタムも思わず足を停めた。が、彼は、相当の距離が二人の間に在るのを知ると、またずんずん前進し始めた。影は、草をさわさわ、わけ進んで来た。白い纏布が互に見えるところへ来ると、先方から、一声、何かツラン語で云いかけた。まだほんの少年の音声である。ルスタムは如何ようにでも解釈される合図の積りで、右手をあげ、声の主に向って一両度ふった。足では矢張り歩きつづけながら。すると先方は、もう一遍先と同じ文句を繰返し、ルスタムの行手を遮るようにして前面に廻った。ルスタムは、それを逸して先に出ようとするのだが、執念(しつこ)く行手にちらついて妨げる。彼は不機嫌に、いかめしくイラン語で云った。

「どけ! 若いくせに命を大切にしろ!」

然し対手にわかる筈はない。声の持ち主は、最初の暢(のん)びりした態度を失った。狂暴な勇気で一杯になり、命をすててかかり始めたのは、手脚の熱烈な動かしようでわかった。短剣の閃きが、ルスタムの暗い瞳に光った。――彼は、仕方なく、隠していた軍用棍棒を右手に持った。そして、さっと四五歩右横に走りかけた。