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ふるきミニエチュア

古き小画

宮本 百合子

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页

青空文庫

あの大きな旗を立てたのは、イランの王の天幕か?」捕虜は、スーラーブの横に、一歩ほどしざって佇んだ。彼は、顔を正面に向けたまま、まるで感動を示さない調子で答えた。

「そうです」

「あの、黒い鞁天幕は? ずっと右手」

捕虜は、頸を動かさず、瞳だけ其方にやった。

「――ギーウ」

スーラーブは、思わず、「ふむ」と満足の鼻息を洩し、顔が赧らむのを感じた。彼は、こんなに素直に捕虜が云ってくれるだろうとは夢にも思っていなかった。彼の希いはもう一つで満されるところまで来た。

スーラーブは、速くなった鼓動が自分だけにしか感じられないのを幸に思いながら、最後の質問を出した。

「左の端にもう一つ大天幕がある。あれは誰のだ?」

「――……」

スーラーブは、答えがないので捕虜の顔を見た。男は、相変らず正面を向いて、スーラーブの声が聴えなかったと思われる様子だ。スーラーブは、捕虜の顔付に注意しながら、もう一遍、問を繰返した。

「あの左の端の天幕は誰のだ?」

スーラーブの言葉が終るか終らないのに捕虜は、ずっぱり云った。

「知りません!」

スーラーブは、覚えずむらむらとした。男の調子はひどく不誠実で、この問だけにはこう答えると、宛然前から定めていたように響いたのであった。