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ふるいど

古井戸

豊島 与志雄

「中央公論」1925(大正14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,433 字 · 43 页

青空文庫

」

「叱られたら、逃げていらっしゃい。私が云い訳をしてあげるから。」

「そう、屹度ね。」

「ええ。大丈夫。」

どんなことになったって構うものか、彼は変にびくびくしてる自分の胸に、自分で云いきかしてやった。

八

光子は悪夢をみることがないようになった。俄に元気に活溌になっていった。

「もう夢をみないでしょう。」

「ええ。」

「よく眠れますか。」

「ええ。よく眠られるわ。」

にこにこして彼の顔を見ていた。

「じゃ、もうあの刀はいいでしょう。」

光子は頭を振った。

「え、どうして……。あんなものをいつまでも持ってるものじゃありません。」

「だって、また夢をみると困るから。」

「その時はまた借してあげます。」

「いやよ、あれ、あたしに頂戴ね。」

「あんなものをどうするんです。」

「大事にしまっとくの。」

「そんなことをすると、本当に叱られますよ。」

「大丈夫。誰も知らないから。」

「でも、枕頭に置いて寝たんでしょう。」

「いいえ。」

「ではどうしたんです。」

「誰にも分らないように、あたし、抱いて寝たの。」

「え、刀を抱いて寝たんですか。」

「ええ、毎晩抱いて寝て、朝になるとそっとしまっといたの。