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ふるいど
古井戸
豊島 与志雄
「中央公論」1925(大正14)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,433 字 · 43 页
一
初めは相当に拵えられたものらしいが、長く人の手がはいらないで、大小さまざまの植込が生い茂ってる、二十坪ばかりの薄暗い庭だった。その奥の、隣家との境の板塀寄りに、円い自然石が据っていた。
「今時、これほどの庭でもついてる借家はなかなかございませんよ。それですから、家は古くて汚いんですけれど、辛棒して住っておりますの。」
「そうですね。手を入れないで茂るに任してあるところが却って……。それに、あの奥の円い石が一寸面白いですね。」
そんな風に、彼は主婦の房子と話したことがあった。
その円い自然石の側に、梅雨の頃、いつとはなしに、軽い地崩れがして穴があき、それが次第に大きくなっていって、流れこむ雨水をどくどくと、底知れぬ深みへ吸い込んでるようだった。
「片山さん……こんな大きな穴が……。いつ出来たのでしょう。」
梅雨あけの爽かな朝日を受けて、房子が箒片手に、こちらを振向いていた。
「今気がつかれたんですか。呑気ですね。」
縁側から庭下駄をつっかけて、彼はわざわざやって行った。
が、よく見ると、石の側にぱくりと口を開いて、斜めに深くおりていってる穴は、広さはさほどでもないが、何だか大きな洞窟の一部分とでもいうような、測り知られぬ感じを持っていた。