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こきんしゅうまきのご
古今集巻之五
山本 周五郎
「文藝春秋」文藝春秋新社、1958(昭和33)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,482 字 · 43 页
親子、夫婦、きょうだい、友達。こういう関係をおれは信じていた。それを信ずることなしに、人間の生活はないと思う。云ってやるが、おれは杉江を信じていた。だからこそなにか疑ったり、特に気をつかったりはしなかった。そうじゃあないか。いっしょにくらしていながら、絶えずお互いに気持をさぐりあうようなことで、夫婦ということができるか。ふん、そうのぼせあがるな、まあおちつけよ永井主計うじ。お袖が云ったろう、女というものはあの気の狂いそうな感じを味わうまえとあとでは、まったく違う人間になるらしいって。そうなのか、女はみんなそういうものか。おれにはわからない。杉江がどんなだったかも気がつかなかった。お袖はそのために。ちょっと待ってくれ、お袖は八年間もそのことを知らずに、夫婦ぐらしをしていたんだろう。それを知ったから木綿問屋をとびだして、また芸妓になったのだろう。いや、と主計は心の中で首を振った。女がみんなお袖のようだとは限るまい、杉江がそうだったと考えるのは侮辱だ。おれたちは結婚してから三年しか経っていなかったし、お袖がそれを知ったような機会は杉江にはなかった。本当になかったか。