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こきんしゅうまきのご

古今集巻之五

山本 周五郎

「文藝春秋」文藝春秋新社、1958(昭和33)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,482 字 · 43 页

青空文庫

ということであまり客をしないから、会うことも殆んどなかった。「山川」でもその話が出て、島仲久一郎が苦情を云った。

――永井はまだわれわれに、女房をよくみせたことがないじゃないか。

すると永井はてれもせずに答えた。

――おれの女房は箱入りなんでね。

――あっさり仰しゃるのね、永井さま、とおしまが睨んだ。覚えていらっしゃい。

私にはその言葉が、ふしぎなほど強く印象に残った。私は汲田を見、おしまを見た。もしここに汲田の馴染がいるとすれば、おしまを措いてほかにはない。そのおしまがそんなにも永井にからむのを、汲田が平気で見ている筈はない、と思ったからである。しかし、汲田広之進が淡々と笑っているのを見ると、私は恥ずかしくなって眼をそらした。役目による習慣はおそろしい、私は無意識のうちに、大目付の眼で友達の心を覗こうとした。そう気がつくといかにもやりきれなくなり、それをまぎらわすためにずいぶん酒を呷ったようだ。

帰宅した時刻も知らなかった。どのくらい眠ったかもわからない、妻にゆり起こされながら、「永井さまから急のお使いです」と云うのを聞くまで、あまりの眠たさにどなりだそうとしたくらいであった。