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どうほう
同胞
豊島 与志雄
「中央公論」1924(大正13)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,713 字 · 32 页
「恒夫さん、何をしているんです、そんなに煙を立てて。」
母の声に恒夫は我に返って、一寸考えてから答えた。
「僕はあまり香をあげたことがないから、これまでの分を一度に焚いてあげようと思って、それで……。」
そんなことをすると火が危い、と母は云った。祖父は盃を下に置いて、小首を傾げた。が何よりも、祖母の眼に非常に悲しげな色の浮んだのが、強く恒夫の心に触れた。
そして、その跡が後まで心に残ったので、恒夫は母と二人になっても、弟のことを尋ねかねた。ただ父の臨終の模様を悉しく尋ねた。
然し母の話は、父の病気の経過のことや、一時無くなった食慾が甘酒のために出てきたことや、最期まで意識がわりにはっきりしていたことや、咳はひどかったが喀血は殆んどなかったことや、講談本を読んで貰うのが好きだったことや、臨終の苦悶がごく軽かったことなど、大抵恒夫が聞き知ってる平凡なことばかりだった。弟のことや弟の母親のことなどは、一言も出て来なかった。そして、何度聞いても常に彼の心を打つことが、ただ一つあった。
父は息を引取る四五時間前に、恒夫を枕頭に連れて来さして、その小さな手を五分間あまりもじっと握っていた。