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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

そうじゃアねえ、銀的だ」

「口の悪い奴だ。いよいよ口が悪い。が、まあ銀公でも銀的でもいい」

「お前さん、この土地へはいつ来たね?」

「二十日ほどまえだ。それがどうしたな」

「あッ、やっと思い出した。そうそうお前さんはお品の婿だね」

「お品の婿だって。何んのことだ?」

「隠したって駄目だ。評判だからな」

「そうか、何んにしても有難い」

「厭な野郎だな、礼をいっていやがる」

「めでたそうな話だからよ」

「だってお前さん評判だぜ。お品の所へ江戸の役者が、入り婿となって来たってな」

「お品の家の離れ座敷を、たしかにおれは借りているよ」

「ソーレ見たか、泥を吐きおった」

「そうしてお品はいい娘だ」

「甘え野郎だ、惚気ていやがる」

「銚子小町だということだな」

「鼻持ちがならねえ、いろきちげえ!」

「だが、銚子の小町娘も、田の草を取ったり網を干したり、野良馬の手綱をひいたりしたでは、こいつどうも色消しだな」

「そいつはどうも仕方がねえ。この辺は半農半漁だからな。よっぽどいい所の娘っ子でも、漁にも出れば作もするよ」

「それはそうだ、御意の通りだ。そうして実はお品にしてからが、その網干しの姿とか、ないしは草取りの姿の方が、ちんと澄ました姿より、よっぽど可愛く見えるからな」