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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
消えた提灯、女の悲鳴
「……雪の夜半、雪の夜半……どうも上の句が出ないわい」
寮のあるじはつぶやいた。今、パッチリ好い石を置いて、ちょっと余裕が出来たのであった。
「まずゆっくりお考えなされ。そこで愚老は雪一見」
立ち上がったあるじは障子を開けて、縁の方へ出て行った。
「降ったる雪かな、降りも降ったり、ざっと三寸は積もったかな。……今年の最後の雪でもあろうか、これからだんだん暖かくなろうよ」
「しかし随分寒うござるな」
侍客はこういって、じっと盤面を睨んでいたが、「きちがい雪の寒いことわ」
「……雪の夜半、雪の夜半……」あるじは雪景色を眺めていた。
「よい上の句が出ないと見える」
「よい打ち手がめつからぬと見える」
二人は哄然と笑い合った。
「これからだんだん暖かくなろう」あるじはまたも呟いた。
「しかし今日は寒うござるな」侍客がまぜっかえす。
「さよう。しかし余寒でござるよ」
「余寒で一句出来ませんかな」「さようさ、何かでっち上げましょうかな。下萠、雪解、春浅し、残る鴨などはよい季題だ」「そろそろうぐいすの啼き合わせ会も、根岸あたりで催されましょう」
「盆石、香会、いや忙しいぞ」