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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「おやまたかい。また惚気かい」

「どれ、そろそろ帰ろうかな、お品の顔でも見に帰るか」

「変な野郎だ。どう考えても変だ」

観世銀之丞と丑松とはこんな塩梅に親しくなった。

「銀之丞さま、銀之丞さま!」

お品が往来で呼んでいた。

「オイ何んだい、お品さん」

「出てごらんなさいよ、通りますよ」

そこで銀之丞は離れ座敷から、往来の方へ出て行った。

お品や、お品の両親や、近所の人達が道側に立って、南の方を眺めていた。

とそっちから行列が、だんだんこっちへ近寄って来た。馬が五頭駕籠が十挺、それから小荷駄を背に負った、十数人の人夫達で、外ならぬ「別荘」の家族連であった。今移転して来たのであろう。

「ねえ、随分大勢じゃないか」「そうさね、随分大勢だね」「荷物だって沢山じゃないか」「そうさ随分沢山だなあ」「どんな人達だか見たいものだね」「お生憎様、駕籠が閉じている」「これでマア別荘も賑やかになるね」「化物屋敷でなくなるわけさ」「それにしても妙だったね。十年このかたあの別荘には主人って者がなかったんだからね」「ところが主人が来るとなると、この通り大仰だ」「きっと主人はお金持ちで、あっちにもこっちにも別荘があるので、こんな辺鄙な別荘なんか、今まで忘れていたのかもしれない」