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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

今も降っている雪のために、おおかた消されてはいたけれど、その足跡は水神の方から、こっちへあるいて来たものらしい。

「つまり」と平八は説明した。「鼠小僧と想像される、ある一人の人間が、水神の方から大急ぎで、横歩きでここまで来たところ、十間のあなたで一組の男女が、何やら悶着を起こしている。そこでその男はここに佇んで、しばらく様子を窺ったあげく、やって来た駕籠に付き添って、元来た方へ引き返して行った。……とこう想像を廻らしたところで、さして不自然ではござるまいがな」

泥棒の嚏も寒し雪の夜半

「それに相違ござるまい。細かい観察恐れ入りましたな」一閑斎はここに至って、すっかり感心したものである。

二人の老人は堤の上を、もと来た方へ引き返して行った。もとの場所へ辿りつくと、「さて最後にお見せしたい物が、実はここにもう一つござる」こういいながら平八は、巨大な桜樹の根もとから、川とは反対に耕地の方へ、土手の腹を下って行ったが、提灯で地面を振り照らすと、「ご覧なされ足跡が、土手下の耕地を両国の方へ、走っているではござらぬかな。さて何者の足跡でござろう?」

一閑斎は眼を近づけ、仔細に足跡を調べたが、