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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「かいくれ見当がつきませぬ」

この時下男の八蔵が、突然大きな嚏をした。彼はいくらかおろかしいのであった。さっきから一人茫然と雪中に立っていたのであった。下男の嚏が伝染ったのでもあろう、一閑斎も嚏をした。

「これはいけない。風邪をひきそうだ。……そろそろ帰ろうではござらぬかな」

しかし平八は返辞をしない。ただ一心に考えていた。

「玻璃窓の旦那、いかがでござる、そろそろ帰ろうではござらぬかな」例の皮肉を飛び出させ、一閑斎はまたいった。

ようやく気がついた平八は、口もとへ苦笑を浮かべたが、「これは失礼、さあ帰りましょう」

三人は耕地を寮の方へ、大急ぎで帰って行った。

とまた一閑斎は嚏をした。

「今夜は嚏のよく出る晩だ」平八は思わず笑ったが、「泥棒も嚏をした事であろう」

「何」というと一閑斎は、そのまま野良路へ立ち止まったが、「出来た! 有難い! 出来ましたぞ!」「ははあ何が出来ましたな」――「まずこうだ。……『泥棒の』と」「ははあなるほど『泥棒の』と」「『嚏も寒し』と行きましょうかな」「『嚏も寒し』と、行きましたかな」「『雪の夜半』」「『雪の夜半』」「何んと出来たではござらぬかな」