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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

賄賂も取れば請託も受けた。その代わり自分でも施しをした。顕職を得たいと思う者が、押すな押すなの有様で、彼の門を潜ったそうだ。

悪さにかけても人一倍、善事にかけても人一倍、これが彼の真骨頭であった。恐れられ、憚られ、憎まれもした。とまれ清濁併せ飲むていの、大物であったことは疑いない。

「お前、聞いたろうな、あの唄を」家斉は早速いい出した。

「お前あいつをどう思うな?」

「厄介な唄でございますな」碩翁はこうはいったものの、厄介らしい様子もない。

「十数年前にはやった唄だ」

「そんな噂でございますな」

「海賊赤格子をうたった唄だ」

「ははあさようでございますかな」碩翁はちゃんと知っているくせに、知らないような様子をした。これが老獪なところであった。家斉をしていわせようとするのだ。

「そうだよ赤格子を唄った唄だよ。あの海賊めがばっこした、十数年前にはやった唄だ」

「海賊の上に邪教徒だったそうで」

「うん、そうだ、吉利支丹だったよ」

「ただし噂によりますと、なかなか大豪の人間だったそうで」

「それに随分と学問もあった。吉利支丹的の学問がな」

「つまり魔法でございますかな」

「いいや、違う、その反対だ」