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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「泥棒の嚏も寒し雪の夜半。……いかさまこれは名句でござる」「句のよし悪はともかくも、産みの苦しみは遁がれましたよ。ああいい気持ちだ。セイセイした」「私は駄目だ!」と平八は、憂鬱にその声を曇らせたが、「見当もつかぬ。見当もつかぬ。しかしきっと眼付けて見せる。耳についている鼓の音! これを手頼に眼付けて見せる」

季節はずれの大雪は、藪も畑もまっ白にして、今なおさんさんと降っていた。

無任所与力と音響学

季節はずれの大雪で、桜の咲くのはおくれたが、いよいよその花の咲いたときには、例年よりは見事であった。「小うるさい花が咲くとて寝釈迦かな」こういう人間は別として、「今の世や猫も杓子も花見笠」で、江戸の人達はきょうもきのうも、花見花見で日を暮らした。

一閑斎の小梅の寮へも、毎日来客が絶えなかった。以前の彼の身分といえば、微禄のご家人に過ぎなかったが、商才のある質だったので、ご家人の株を他人に譲り、その金を持って長崎へ行き、蘭人相手の商法をしたのが、素晴らしい幸運の開く基で、二十年後に帰って来た時には、二十万両という大金を、その懐中に持っていた。利巧な彼は江戸へ帰ってからも、危険な仕事へは手を出さず、地所を買ったり家作を設けたり、堅実一方に世を渡ったが、それも今から数年前までで、総領の吾市に世を譲ってからは、