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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「二、三人おりますでござります」

「ちょっと訊きたいことがある。多人数はいらぬ、一人出すよう」

「かしこまりましてござります」

やがてそこへ現われたのは、八助という水夫であった。

「八助というか、恐れなくともよい。遭難の様子を話してくれ。……で、賊船は幾隻あったな?」

八助はオドオド顫えながら、

「へえ、親船が一隻で」

「櫓の格子は赤かったかな?」

「いえ、黒塗りでございました」

「ナニ、黒塗り? ふうむ、そうか」平八は小首を傾げたが、「無論、帆船であったろうな?」

「へえ、さようでございます」

「異ったところはなかったかな?」

「へ? なんでございますか?」

「帆の形だ。帆の形だよ」

「へえ、べつに、これといって……」

「普通の型の帆船であったか?」

「へえ、さようでございます」

「ふうむ、そうか。……ちょっと変だな」

考えざるを得なかった。

「で、大砲でも打ちかけたか?」

「なかなかもって、そんなこと」

「大砲二門、備えている筈だ。そんなものは見かけなかったかな?」

「なんであなた、大砲など……」

「ふうむ、そうか、これもいけない」

平八はまたも考え込んだ。

「で、どうだな、海賊どもは、穏しかったかな、乱暴だったかな?」