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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
この二人の問答を聞き、はっと思ったのは平八で、剣技神妙の侍が、秋山要介であろうとは、たった今し方感づいたところで、これには別に驚かなかったが、海賊船の頭領が、森田屋清蔵であろうとは、夢にも思わなかったところであった。
天保六花撰のその中でも、森田屋清蔵は宗俊に次いで、いい方の位置を占めていた。しかも人物からいう時は、どうしてどうして宗俊など、足もとへも寄りつけないえらものなのであった。気宇の広濶希望の雄大、任侠的の精神など、日本海賊史のその中でも、三役格といわなければならない。産まれは駿州江尻在、相当立派な網持ちの伜で、その地方での若旦那であり、それが海賊になったのには、いうにいわれぬ事情があったらしい。
海賊船は梵字丸
郡上平八が隠居せず、立派な与力であった時分、その豪快な性質を愛し、二、三度目零しをしたことがあった。で清蔵からいう時は、まさしく平八は恩人なのであり、また平八からいう時は、恩を施してやった人間なのであった。
しかるに清蔵はここ七、八年、全く消息をくらましていた。もう死んだというものもあり、南洋へいったというものもあり、日本近海からは彼の姿は、文字どおり消えてなくなっていた。