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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
……あにきこいつは考えものだぜ」
いわれて甚三は黙ってしまった。身に覚えがあるからであった。
「よしお北さんが飯盛りでも、宿一番の名物女、越後生まれの大莫連、侍衆か金持ちか、立派な客でなかったら、座敷へ出ぬという権高者、なるほどお前も歌にかけたら、街道筋では名高いが、身分は劣った馬方風情、どうして懇意になったものか、不思議なことと人もいえば、このおいらもそう思う。……だがもうそれは出来たことだ、不思議だきたいだといったところで、そいつがどうなるものでもねえ。おいらのいいてえのはこれからの事だ。あにき、どうだな、思い切っては」
まごころをこめていうのであるが、甚三は返辞さえしなかった。ただ黙然と考えていた。
「こいつは駄目かな、仕方もねえ」甚内はノッソリ立ち上がったが、「あにき、おいらにゃあ眼に見えるがな。お前があの女に捨てられて、すぐに赤恥を掻くのがな」行きかけて甚内は立ち止まった。「あにき、おいらは近いうちに、越後の方へ出て行くぜ。おいらの永年ののぞみだからな」
平手造酒と観世銀之丞
甚内はじっとたたずんで甚三の様子を窺った。甚三は黙然と考えていた。