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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
ひとつあそこから探るとしよう」
土塀の内側に繁っている、杉や檜の林の中に、二人は隠れていたのであったが、こういうと造酒は歩き出した。
「まあまあちょっとお待ちなすって。そう簡単にゃいきませんよ。なにしろここは敵地ですからね。いかさまあいつが出邸らしい。と、するといっそうあぶねえものだ。人がいるならああいう所にいまさあ。つかまえられたらどうします」「いずれ人はいるだろうさ。これほどの大きな屋敷の中に、人のいない筈はない。が、おれは大丈夫だ。五人十人かかって来たところで、粟田口がものをいう。斬って捨てるに手間ひまはいらぬ」「それはマアそうでございましょうがね。君子は危うきに近寄らず、いっそそれより本邸の方から、さがしてみようじゃございませんか」「いやいやそんな余裕はない。観世から来た鞘手紙、危険迫るとあったではないか。一刻の間も争うのだ」「なるほどこいつあもっともだ。だがあっしは気が進まねえ。うん、そうだ、こうするがいい。あなたは出邸をお探しなせえ。あっしは本邸を探しやしょう」「おお、こいつはいい考えだ。それではそういうことにしよう」
ここで二人は左右へ別れ、次郎吉は本邸へ進んで行った。