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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
逢ってもみたし逢いたくなし。少し様子を探ってやれ」
で彼は西へ廻った。
この本邸の建て方は、中央に九郎右衛門の部屋があり、その部屋の四面を囲繞して、廊下がグルリと作られてあり、その廊下の隅々に、四つの部屋が出来ている。
で、次郎吉の立っていた所は、その北側の廊下であって、それを今西の方へ歩き出した。また平八の立っていた所は、南側の廊下であったが、それを今東へ歩き出した。
九郎右衛門の居間たるや、四方厚い石壁で、各の四隅に戸口はあったが、石壁の色と紛らわしく、発見することは不可能であった。
玻璃窓の平八は足を止めた。それは自分の反対側で、誰かこっそり歩いているとみえ、幽かな足音がしたからであった。しかしもちろん足音の主が、鼓賊だなどとは夢にも思わず、邸内の者だろうと想像した。
追いつ追われつ鼓賊と玻璃窓
「九郎右衛門には逢わなければならない。その他の者には逢いたくない。深夜に他家へ忍び込み、ウソウソ歩いているところを、とっ捉まえられたらそれっきりだ。泥棒といわれても仕方がない。しかし誰かに聞かないことには、九郎右衛門のありかは解らない。歩いているのは誰だろう? 九郎右衛門なら有難いが? いやいや恐らく召使いだろう。