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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
ずっと前から横恋慕をし、今日のような大事の瀬戸際に、こんな所へおびき出し、はずかしめようとしたのでございます。……失礼ながらあなた様は?」お艶は気が付いてこう訊いた。造酒はそれには返辞をせず、
「お見受けすればあなたには、どうやらこの家のお身内らしいが、しかとさようでござるかな?」
「ハイ、さようでございます。別荘の主人九郎右衛門の娘、艶と申す者でございます」「有難い!」と叫ぶと平手造酒はツカツカ二、三歩近寄ったが、「しからばお訊きしたい一義がござる。江戸の能役者観世銀之丞、当家に幽囚されおる筈、どこにいるかお明かしください!」勢い込んで詰め寄せた。
と、お艶の眼の中へ、活々した光が宿ったが、
「仰せ通り銀之丞様は、当家においででございます」「おお、そうなくてはならぬ筈だ。で、今はどこにいるな? おおよそのところは解っている。地下にいるだろう、数十尺の地下に!」「ハイ」といったがニッコリと笑い、「ああそれではあなた様は、鞘に封じたあの方の文を、お拾いなされたのでございますね。それでここへあの方を、助けにおいでなされたので。……そうですあれは十日ほど前に、空洞内の土牢から、海へ投げたものでございます」