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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
どうぞおさげすみくださいますな。妾のような異国育ちのものは、愛とか恋とかいうようなことを、憚からず申すものでございますから。……するとある晩観世様が、別荘へ迷って参られました。そうして父と逢いました。そうして父の依頼を諾かれ、この別荘へお止どまりくだされ、妾達を狙うある敵から、妾達を守ってくださるように、お約束が出来たのでございます。……どんなに妾が喜んだか、どうぞご推察くださいますよう。妾達二人はその時から、大変幸福になりました。妾達は恋の旨酒に酔いしれたのでございます。けれどそういう幸福には、きっとわざわいがつきやすいもので、一人の恋仇が現われました。あの丑松でございます。丑松は父に讒をかまえ、観世様を地の底の、造船工場へ追いやりました。――妾達の秘密を観世様が、探り知ったという罪条でね。で、それからの観世様は、多くの大工と同じように、暗い寒い空洞内で、働かなければなりませんでした。するとそのうち丑松は、また父にこんなことを申しました。それは観世様が二葉の図面を――ご禁制船の図面なので、それを妾達は地下の空洞で、拵えていたのでございますが、それをこっそり奪い取り、刀の鞘へ封じ込み、外海へ流したというのです。